〜幼少期編〜そのオトコ、団地に現る③
震える足でもう一回り上ったところで、男は口を開くと『いいよ、ここに座って』と、私をまた座らせる。
静かすぎる団地からは人の気配もなく、私への助け船はこなそうだ。
男は私にキスをすると、ブラウスのボタンを外しはじめた。
ふたつみっつと外したところで、中に手を入れ私の胸を触りはじめた。
ーなぜこんなことをするの?ー
私は困惑しながら、それでいて不快で、よくわからない気持ちになった。
子供ながらに、男がなにかしら興奮しているのだと見てとれた。
男が私のパンツを触りはじめ、パンツの中に手を入れはじめたところで『このままここに寝て』と階段上の踊り場に手をつく。
さらなる嫌な予感と恐怖で、私は失禁してしまいそうになった。
ーその時だったー
向かいの団地のおばさんが、ベランダに干した布団をばたんばたんと叩きだした。
位置としては、ちょうど私たちが見える高さにおばさんの部屋があり、もしも彼女がこちらに気づいたとしたら1発で怪しまれる体制であったため、男は慌てて身体を起こした。
『このことはお父さんやお母さん、警察の人にもだれにも言っちゃダメだよ。内緒だよ!』と私にしっかりと念押しすると『もう行っていいよ』と帰るよう促した。
私はダッシュした。
走って走って、とにかく走った。
口の中の気持ち悪く不快な感触を拭いたくて、何度も何度も唾を吐いた。
唇を沢山こすった。
帰り道はもう夕暮れ時で、親を悲しませてしまうから本当に言えないな。と思いながら歩いた。
元の世界に戻って、現実の街の時間はいつもとなんら変わらなくて、不思議な気がした。
もちろん、両親にも誰にも言えなかった。
そしてこの時の私は、この恐怖が続くとは夢にも思わなかった。
